ふたつの熱
熱されて玉虫色になった金属があなたの皮膚のつめたさと出会う。音も立てず交渉が進んで、中間地点を探すふたつの熱。そのせいで残ったクリップの跡が白い皮膚をめくって赤くする。次のページは黒く塗りつぶされていた。もう一枚めくると、水面をすべる朝日がふたりの顔を温める。眼窩に差し込んだ熱で溶けた海馬。手首をカッターで切って推しの名前を刻む人たちの横でトリスのハイボール飲む。路上飲みは禁止されていますと言ってパクパク通過する緑。タバコの灰が散って汚れたアスファルトでスカートを汚す女子高生は飲み口からストローが飛び出たストゼロの缶にスマフォを立てかけ小さな画面に踊らされている。窓の向こうにある景色は随分遠い。火傷の方が消えにくいんだよ。こわ〜。ベッドとシャワールームだけの部屋。窓がない。はじめまして。緊張してます? たくさん練習したんだよ。良いから黙って見てて。はーい。こういうとこ来るのはじめてなんです。ありがとうございました。お元気ですか。お酒飲むときは水も飲むんだよ。
ヴァロットン展を見たときの記憶が壊れている。目の前にある絵画は少女であると同時に絵具だった。あるいはソファである以前に赤だった。こういうのを近代って言うの。へー。でもべつにミケランジェロだって絵具でかいてるじゃん? んー。ちょっと違くてね。なんかむずかしいです。こないだ絵の説明したら美術って難しいって言われてちゃってさ。お前の説明ヘタなだけなんじゃね。この胸の奥を切っているのが誰なのかわからない。
「こういうふうに描きたいな」(それって絵? 文章?)
熱いのは炎じゃなくて指先。炎は熱いじゃない。炎は赤いじゃない。炎は明るいじゃない。指先で指先を撫でる。ひとりじゃない。熱いは指先。赤いも明るいも網膜。そうやって世界が詩になってゆく。ひとりじゃない。たくさんのひとり。繊細だった。前半は英語で後半は日本語の、叙事詩、は、戦争について語っている。This is my last war. 人類と巨人を分ける壁だって実は巨人だったし、人類だって巨人だし、この世界に境界がないからわたしたちは殺し合っている。昨日いじめられていたあの子は、今日はいじめる側になった。まりちゃんは僕になったけど、僕は僕のまま。テキーラの入ったグラスを小指と人差し指で挟む六百円。口の中でライターの火を付けるのが好き。iPhoneの明かりで自販機の下を照らして拾った十円玉でマウンテンデュー飲みながら太陽見てたらトイレ行きたくなってきたわ。
当たり前の日々に灼かれた子猫が校舎の前で吐血している。